南八ヶ岳・大同心雲稜ルート

2025.08.30 南八ヶ岳・雲稜ルート

メンバー: 瀧川・武田・鈴木(拓)

穂高屏風岩に引き続き、今度は南八ヶ岳大同心”雲稜ルート”を登ってきた。南八ヶ岳は冬季に何度も登ってきた。特に大同心稜はアプローチ等で活用し、登下降を繰り返してきた。大同心に関して言えば、大同心ルンゼから登り、回り込んで頭に立ったのが8年前。その後、南稜を登ったのが6年前。そしてしばらく空いて今年、北西稜を登った。雲稜ルートの存在は知っていたが敷居が高いように感じ、登るならばドライツーリングで登りたいと考えるも、実力がまだ及ぼないと避けてきた。八ヶ岳でクライミングをするなら有名なラインで言えば雲稜ルートぐらいしか残っておらず、ぜひ最後の課題として取り組みたい。だが今年も達成できず。まずは自信をつけるということと、ルートを確認しておけば、比較的敷居を下げられるという仮説のもと、今夏に予備山行として決行した。結果、次の冬に登る自信と、期待感を得ることができた。その記録をここに残したいと思う。

<前日>

登攀前日の夜、西船橋駅に集合。千葉県出身の3人組が諸々の事情で再び千葉県で会合した。車で山梨へ移動し、近場の野営地で1時ごろ野宿した。鈴木は不足する睡眠時間を確保するために、夕方仮眠をとっていた。それから数日前から湧き上がるモチベーションを抑えられず、かつ、ブラックチョコレートのカフェインで頭が冴える状況。全く眠れないまま、綺麗な山梨の夜空と二人の寝息を聞きながら、起床時間の3時を迎えた。

<登攀日>

赤岳山荘の駐車場へ、4時すぎに到着した。4時半ごろ、ヘッドランプをつけて徐々に歩き出す。雪のない北沢の登山道が新鮮だった。1時間程度で赤岳鉱泉へ到着し、小休止する。アイスキャンディーのない鉱泉も違和感があったが、空気がとても澄んでいて気持ちがいい。再び歩き始め、大同心稜を登る。1時間程度歩くと、大同心の西壁が見えてくる。取り付きから壁を見上げると、冬にはどこから登ればよいのか観察しても不安しかなかった岩壁も、次第と合理的なラインが見えてきた。7時ごろ、登攀開始。

<1P目>リード:瀧川

至る所に散らばるガバホールドを使い、豪快に直上する。一部ハングがあるが、ガバを使って気持ちよく超えることができた。ハング部分は、冬季は緊張するかもしれないが、手袋でもしっかりと掴めそうなホールドはあったし、スタンスも選べば問題ない。

<2P目>リード:瀧川

続くピッチも直上した。一箇所ステミングを使う微妙なパートがありつつ、同じくガバホールドを使って登る。スラビーな岩面にアイゼンはたてられないが、前爪を引っ掛けられそうなスタンスや、ガバの位置などを確認できたので、冬季でもこのパートは登れそうだ。

<3P目>リード:武田

このピッチから、最終ピッチめがけて右上気味に登り始める。ジェンガのように積み重なった浮石の多いラインを丁寧に登った。

<4P目>リード:武田

このピッチは大きく壁を見て右側にトラバースする。トラバースは何度やっても怖い。フォローも怖い。それでも楽しい気持ちが勝ち、最後のピッチへの期待感に胸を踊らせた。

<5P目>リード:鈴木

このパートは、フォローだが冬季に南稜を登った際、登攀している。ガバもスタンスも多く快適な直上ラインだが、当時はストレートに近いピッケル2本(リーシュ)のみで登り、猛烈にパンプした記憶がある。丁寧にガバを探し、落ち着いて足置きをすれば、十分に冬でもリードができる。このピッチは南に面しているので、東側に隠れていた太陽光が気持ちよく、頭にたどり着いた。フォローの2人も面白かったと口を揃えて登ってきた。

下山道中、クライマーに、早いですね、継続しないのですか、と声をかけられたが、こちらからすれば最暑の時間に登りたくないのだ。それでも睡眠時間を確保するという観点で言えば、遅く出た方がいいのだろうか。いや、先発がいると落石の危険もあるし、遭難リスクを下げるための最善は、しっかりと眠ったうえで、早く取りつくことだと思う。人が3人しかいない岩壁の中で、最高な時間を過ごすことができた。次回は冬に。

穂高岳・屏風岩東壁〜雲稜ルート〜

2025.07.19-20 穂高岳・屏風岩〜雲稜ルート〜

メンバー: 山本・鈴木(拓)

<上高地〜横尾>

19日朝、眠れない高速バスが上高地に到着した。外に出ると、半袖では寒すぎる気温。そして眠い。というか、バスのなかも寒かったな?特に準備することもなく、おにぎりを一つ咥えて、横尾に向けて歩き出した。道中もとても涼しく、2時間強で到着。登山届を提出し、パトロールのお兄さんにやさしくアドバイスをいただいた。

<横尾〜屏風岩>

横尾から1ルンゼ押出と出合う岩小屋跡まで歩き、冷たい水の中を渡渉。初めてだったが道は分かりやすく、ルンゼを登って行くと急に開け、屏風岩東壁がよく見えた。ルンゼ脇の木陰になりそうな箇所に荷物を置いて、空身で偵察をしに行った。T4尾根末端部分には雪渓が残っていて、吹き下がる風が涼しい。雪渓上はほとんど歩かずにT4取り付きまで登ることができた。T4のラインもだいたい掴んだところで、荷物置き場に戻る。まだ10時台だが、特にできることもない(暑すぎて登る気力は起きない)ので、しばし日陰で昼寝をすることにした。数時間寝てから起き、日々の色々なこと(不安なことも、幸せなことも)に思いを馳せた。この時間があるから、山登りはやめられないと思う。ただ岩場を登るためだけに歩いてきたわけじゃない。

屏風岩東壁を見上げる。

<T4下部〜ビバーク>

夕方、日向が完全になくなったころ、のそのそと動き出し、とりあえずT4尾根始め2ピッチに一本ずつフィックスを張ることにした。1ピッチ目は山本がリードし、一本ロープを張った。フォローで鈴木が登り、そのまま2ピッチ目をリードしたのち、ロープをセットして懸垂下降で取り付きまで降りた。この日はルンゼ脇の適地でビバークし、次の日に備えた。

<雲稜ルート登攀>

深夜2時半、充分な時間眠ったとはいえ真っ暗闇の中、眠い目をこすりながら起床。朝飯を済ませて3時半に出発した。前日のフィックス設置は英断で、暗闇の中でも安全にT4下部2ピッチをユマーリングをすることで処理できた。その後は明瞭な踏み跡を辿り、一部クラックをチムニー的なムーブで登り、T4テラスに到着。薄明るくなる4時半ごろに、雲稜ルートに取り着いた。1P目は山本がリード、5.7とトポには書いてあるが、フォローの鈴木は一部残置スリング(?1mm程度の細引き)をつかみ、なんとかピナクルテラスへ。2P目は鈴木がリード。5.9という触れ込みだが、圧倒的悪さにA0を駆使してトラバース、扇岩があったテラスへ。そして核心のボルトラダーパートは、山本がリード。ヌンチャクをかけて掴むという動作を基本として、一部アブミも交えながら登った。古い支点に落ちられない恐怖と闘いながら、フォローも丁寧に時間をかけて登った。このピッチは1時間程度かかってしまった。4ピッチ目は鈴木がリード。このピッチも微妙なトラバースを含み、残置スリングに助けられてなんとか東壁ルンゼへ入り、ルンゼを少しあがったテラスまで。5P目は60mロープいっぱいに伸ばして草ボーボーのルンゼを山本がリード。終了点より残り数メートル上に設置されたラペルアンカーまで鈴木が登り、ジャスト8時ごろ懸垂下降を開始した。T4までスムーズに降りたが、壁には後続パーティとして7人ほどのクライマーが岩にかじりついていた。岩自体も暑くなる時間帯、すこし心配になったが、とりあえず自分らは安全圏(T4尾根取り付き)まで懸垂下降で降りた。途中、雪渓クーラーや、渡渉ポイントで涼みつつ、昼前には横尾を通って、上高地に下山した。

核心の3ピッチ目を山本が登る。

これまでフリークライミングにこだわって、自分でもフリーで登れる易しいグレーディングのルートを基本に登ってきた。そのため、エイドクライミングからは距離を置いて接してきた感がある。ただパートナーの希望で今回雲稜ルートに触れ、先人たちがボルトを大量に打ち込んでまで登ろうとした執念と、その巨人の肩の上に立つことで成立した今回のクライミングには感慨深いものを感じた。またしばらくは自分のスタイル(フリークライミング)にこだわって登山を続けるだろうが、この時の気持ちを忘れずに、いつか言語化できるように心に認めたいと思った。

初夏の錫杖岳ロッククライミング:LittleWing, 注文の多い料理店

2025.06.28(土)-29(日) 快晴
メンバー: 土屋・山本・鈴木(拓)
文責: 鈴木拓海

梅雨の合間に、北アルプス南部に位置する錫杖岳の前衛フェースを登ってきた。この時期には既に雪渓は消失していて、綺麗な水が錫杖沢を流れていた。アプローチ途中の緑たちは生い茂っており、ルート途中にも草がのびのびとしていた。梅雨の中休みにもかかわらず状態は良くて、充実したクライミングを行うことができた。

初日は朝6時ごろゆっくりと起き出し、いつものように、”どんべい”のためのお湯を沸かした。前日1時半ごろようやく眠りにつけたので、4時間半しか寝ておらず全く体の動きが鈍い。せめてもの救いが、東京と違って涼しいことだった。日差しも出てきて、快晴の中、ワクワクしながら歩き出した。

<<Little Wing >>

錫杖沢出合にテントを設営し、すぐに準備を済ませて前衛壁を目指した。昨年5月末に、左方カンテと1ルンゼを登っていたのでルートはバッチリわかった。ただ1ルンゼの取り付きまでは雑草が生い茂っており、踏み跡を少し外れてたどり着いた。10時前、少し遅い時間だが、LittleWingを登攀開始。3分の2ぐらいは1ルンゼを登るルート。鈴木がはじめの2ピッチをリード。日差しが暑いが、最近は沢登りばかりしていたので、乾いた岩を登るのが楽しい。(しかも、他に誰もいない!)。続いて、山本が次の2ピッチを登った。そして1ルンゼから逸れて、LittleWingへ。予定通り12時前に到着。

LittleWingはじめの5.9セクションは土屋さんリード。これまでの様相と全く異なり、垂直のクラックを登る。カムを慎重に決めて登られていた。ここからは日陰に入り、暑さを凌いで快適なクライミングを楽しめた。次の5.10cのピッチは山本がリード。ハンガーボルトの状態が少し悪いようだったが、カムも決めながら順調に上がる。最後の核心ピッチは鈴木にとっては緊張する楽しいクライミングだった!懸垂下降は4回で取り付きへ。下りは一瞬。テント場に戻って食事と団欒の後、18時には夕陽で明るいテントの中で就寝した。

<<注文の多い料理店>>

翌日は4時に起床。5時すぎには出発した。既に気温も高く、沢の冷たい水がうまい。北沢側フランケに回りこみ、登攀開始。1-2ピッチ目はロープいっぱいに継続し、鈴木がリードした。支点が遠く感じる区間もあり、緊張しながらではあったが、岩を掴むたびに幸せホルモンが脳内を駆け巡った。核心3ピッチ目も鈴木がリードした。フィスト大好きお兄さんなので、もちろんフィストジャムを両手で決めて、プチ被り壁を超えた。その後は快適なクラックを超え、終了。4ピッチ目は山本がリード。このピッチも緊張感があった。5ピッチ目の長い凹角左のクラック沿いラインは土屋さんがリード。続けて左方カンテの最終フェースも土屋さんがリードし、山頂まで抜ける最後のピッチは省いて懸垂下降で取り付きまで降りた。5.8とはいえ久しぶりの本格的なクライミング、安全に楽しめて充実した週末になった。

関東からは少々遠いし、浮石も多少あって、緊張感のある岩場だが、人は少ないし、面白いラインがたくさんある。また時間を作って必ず登りに戻ってきたい。

残雪の宝剣岳〜東壁中央稜〜

2025.04.12(土) 快晴のち曇り
メンバー: 土屋・鈴木(拓)
文責: 鈴木拓海

以前よりトライしてみたかった中央アルプス・宝剣岳の東面を残雪期に登ってきた。中央稜を登る予定だったが、思いがけずバリエーションルートを登ることとなった。自分にとっては2024/2025最後の雪山で、全てのピッチをリードし、充実したクライミングで今シーズンを終えることができた。

決行日、眠い目をこすりながら、菅の台からバスとロープウェイで千畳敷駅へ移動。08:50頃、身の回りの準備を済ませて、千畳敷カールに足を踏み入れた。この時点でハッキリと見える宝剣岳東面に笑みを隠せなかった。天気は快晴で、雪もそれなりについているのが見えた。(これで楽しくないわけがない)。山の上は一面白銀の世界で、一気に目が覚めた。既に八丁坂を登る登山客の列からはみ出て、宝剣岳東面を目指しているパーティがいたので、彼らのトレースのあとをついて行った。



壁に近づくと、2P目を登っている3人パーティの姿が見えた。さらに壁を目指して歩いている最中、ガガガッという音がしたので壁を見上げると、フォローのクライマーがロープにぶら下がって、ゆれていた。(まじかよ〜自分に登れるかなと急に不安になる)。

取り付き付近の樹木にセルフビレイをして、登攀準備を始めた。トレースをつけてくれた先行パーティに先を譲るも、待っていても仕方ないので登れそうなラインを登ることにした。「中央稜の1P目は2ルートぐらい登られてるよな」と思いつつ、左の方へトラバースして壁に取り付いた。



10時前に登攀開始。割と立っている岩にへばりついている凍っていない草付きに、ダブルアックスで身体を上げようとすると、左手のアックスが土と共に剥がれた。身体をゆっくりとまた下げながら、どうすんだこれ・・・と逡巡するも、他に登れそうなところはないので、「えいや」で思い切って身体をもう一度あげた。その後は、草付きがなくなり、完全なスラブ。ハーケンが連打されていたので、スリングをかけて荷重をかけてトラバースをしつつ稜線めがけて登った。あとからわかったことだが、左フランケルートに入ってしまったらしい。ハーケンが見当たらなくなり、再び現れた草付きをダブルアックスで越えた。1P目はデカイ木で終了。

先行パーティのリードに合流し、お互いのルートの感想を話し合った。フォローの土屋さんも無事登ってきた。先行パーティが先に2P目を登り始めたが、その右側に顕著なクラックが走っていたので、僕らも並走してこちらのクラックを目指して取り付いた。まずは出だし、薄く雪が載ったスラブを滑らないように丁寧に足置きして登った。右側にクラックがあるが中の岩はボロボロで全然安心できなかった。少し登ると小ハングがあり、目の前にカムをセットできたので一安心。ただここからどうやって上がればいいのかわからず・・・スリングでアブミを作って身体を上げるも、クラックは広すぎて体勢も悪かった。しばらく逡巡し(再び)、意を決して再度身体を上げ、凹角状の左壁にくっついているコケにアックスを刺し、足をスリングから外した・・・。この瞬間、ビリビリッと脳に緊張が走るが、足をハング上のクラックに入れ、アックスは剥がれず持ち堪えてくれた。その後はフィストサイズのクラックと、左壁のコケを使いながら雪の載ったハイマツまで登った。ハイマツ登りは大得意範囲。ハイマツをつかみ、雪にアックスを刺して、ビレイ点から見えていた雪の傘を乗越した。その後は快適な雪面を登り、木で終了。



再び先行パーティのリードと合流(先行パーティは2P目を2パートに分けて登った)した。土屋さんの方が先に登ってきたので、僕らの方が先に3P目オケラクラックを登らせてもらった。本来中央稜はオケラクラックが核心と言われている。ただ、エイドを交えても奮闘的な1-2P目を越えていたので、緩い傾斜でカムがしっかり入るオケラクラックは容易に感じた。クラックの中にグサグサの雪がつまっていて、アックスが刺さりにくいのが登りづらくさせていたが、フットジャムをしっかりと決めて着実に登った。終了点はカムで作った。



最終4P目は初めに草付きを登ると、二本足で歩ける雪稜に変わる。今日のクライミングを思い返しながら、山頂に立った。空は少し雲がかかってきていた。身支度を整えて山荘方面へ下り、八丁坂を降りた。



奮闘的なパートがあったとはいえ、中央稜は4Pしかないので、「まだまだ登り足りないなあ」と消化不良な気持ちを抱えていた。そのためか、何度も東面を振り返り、オケラクラックを登っているパーティ(先行パーティ)を見て、「楽しかった」、「良かった」、と何度も土屋さんと話していた気がする。

宝剣岳はまだまだ登りたいルートがたくさんある。来年は厳冬期にチャレンジしたい。