Old but ・・・ マリオネット

マリオネットが登れた・・
39年前に山野井君が初登した、岩と雪117号の表紙にもなったルートだ。
私は幸運にも、初登時のビレイをし、名付け親にもなれた。
しかし当時の私にはこのルートにトライする力は無く、その後長い間訪れることも無くなってしまった・・・

2016年に初めて触ったが、足元に見える空間にビビり、ボコボコにされてしまった・・
そして今年の1月2月に1回ずつ、9年ぶりにトライしたが、今度は寒さで身体が動かない・・
城ケ崎としてはシーズン真っ盛りなのだが、60代の老体には寒すぎる・・
「ここなら夏でも登れるんじゃない?」のY君の言葉に一念発起、頑張って通ってみることにする。
4月26日に再訪、しかし今度は上部の引き付けるムーブで左肘を痛め4ヶ月離れることになってしまった。
力でねじ伏せるのではなく、ヒネリや足さばきで登らないと、これはダメなんだ、と改めて痛感した。
怪我から回復した8月中旬からトライ再開、しかしさすがに暑い!
特にチムニー部は熱がこもり、レストしていても汗が噴き出してくる。
まもなく前期高齢者の身体には休養の時間が必要で、以降2週間おきのトライにした。
ボコボコにされ、私が年齢を言い訳に弱気の発言をすると、毎回ビレイに付き合ってくれるY君が「今だから面白いんじゃない!あきらめる事は、いつでもできる!」と励まし?の言葉・・
そうだ、やめることはいつでもできる、今この年齢で頑張るから面白いんだ!
ジムのパートナーのアドバイスのおかげもあり、本当に少しずつではあるが、進歩が感じられるようになってきた。
そして10月19日の1便目、出だしは少々バタバタしたが、落ち着いてレストポイントで休め、苦手だった上部も何とかノーテンでこなし終了点が目前に・・
だが終了点へのクリップが出来ない・・
前腕がパンパンになってしまい、片手での保持が出来ないのだ!
吐きそうになるのをこらえ、何度か左右の手を入れ替えてクリップ成功!
「テンション」のコールで下へ降り、Y君と恥ずかしながら握手をすると、39年前にタイムスリップしたような、とても幸せな瞬間を感じた・・・


おまけの話
39年前にY君が残した初登時の終了点のカラビナとスリングを回収しました。
回収便で登る際に「終了点のカラビナ、記念に持っていたら?」との言葉で、私の宝物にさせていただきました。」
カムは回収できなかったので残っていますが、少し見た目がスッキリしました・・


最後に故杉野保さんの言葉を引用します・・
「まずひとつ言えることは、このルートは理屈抜きにおもしろいということだ。それは、超立体的構造が要求するムーブの多様性でもあり、露出感の極めて高い爽快な核心部でもある。(中略)「チンケなルートとは、体の一部しか使わないルートのことだ」吉田和正氏の言葉を借りれば、これはまさに対極にあるルートと言ってもいい。(中略) これはもっと登られてもいい、いや登られるべきルートである。」
そして、「世のクライマーたちは登るべきルートを間違えているのかもしれない。」としめくくっている。

記 熊谷