穂高岳・屏風岩東壁〜雲稜ルート〜

2025.07.19-20 穂高岳・屏風岩〜雲稜ルート〜

メンバー: 山本・鈴木(拓)

<上高地〜横尾>

19日朝、眠れない高速バスが上高地に到着した。外に出ると、半袖では寒すぎる気温。そして眠い。というか、バスのなかも寒かったな?特に準備することもなく、おにぎりを一つ咥えて、横尾に向けて歩き出した。道中もとても涼しく、2時間強で到着。登山届を提出し、パトロールのお兄さんにやさしくアドバイスをいただいた。

<横尾〜屏風岩>

横尾から1ルンゼ押出と出合う岩小屋跡まで歩き、冷たい水の中を渡渉。初めてだったが道は分かりやすく、ルンゼを登って行くと急に開け、屏風岩東壁がよく見えた。ルンゼ脇の木陰になりそうな箇所に荷物を置いて、空身で偵察をしに行った。T4尾根末端部分には雪渓が残っていて、吹き下がる風が涼しい。雪渓上はほとんど歩かずにT4取り付きまで登ることができた。T4のラインもだいたい掴んだところで、荷物置き場に戻る。まだ10時台だが、特にできることもない(暑すぎて登る気力は起きない)ので、しばし日陰で昼寝をすることにした。数時間寝てから起き、日々の色々なこと(不安なことも、幸せなことも)に思いを馳せた。この時間があるから、山登りはやめられないと思う。ただ岩場を登るためだけに歩いてきたわけじゃない。

屏風岩東壁を見上げる。

<T4下部〜ビバーク>

夕方、日向が完全になくなったころ、のそのそと動き出し、とりあえずT4尾根始め2ピッチに一本ずつフィックスを張ることにした。1ピッチ目は山本がリードし、一本ロープを張った。フォローで鈴木が登り、そのまま2ピッチ目をリードしたのち、ロープをセットして懸垂下降で取り付きまで降りた。この日はルンゼ脇の適地でビバークし、次の日に備えた。

<雲稜ルート登攀>

深夜2時半、充分な時間眠ったとはいえ真っ暗闇の中、眠い目をこすりながら起床。朝飯を済ませて3時半に出発した。前日のフィックス設置は英断で、暗闇の中でも安全にT4下部2ピッチをユマーリングをすることで処理できた。その後は明瞭な踏み跡を辿り、一部クラックをチムニー的なムーブで登り、T4テラスに到着。薄明るくなる4時半ごろに、雲稜ルートに取り着いた。1P目は山本がリード、5.7とトポには書いてあるが、フォローの鈴木は一部残置スリング(?1mm程度の細引き)をつかみ、なんとかピナクルテラスへ。2P目は鈴木がリード。5.9という触れ込みだが、圧倒的悪さにA0を駆使してトラバース、扇岩があったテラスへ。そして核心のボルトラダーパートは、山本がリード。ヌンチャクをかけて掴むという動作を基本として、一部アブミも交えながら登った。古い支点に落ちられない恐怖と闘いながら、フォローも丁寧に時間をかけて登った。このピッチは1時間程度かかってしまった。4ピッチ目は鈴木がリード。このピッチも微妙なトラバースを含み、残置スリングに助けられてなんとか東壁ルンゼへ入り、ルンゼを少しあがったテラスまで。5P目は60mロープいっぱいに伸ばして草ボーボーのルンゼを山本がリード。終了点より残り数メートル上に設置されたラペルアンカーまで鈴木が登り、ジャスト8時ごろ懸垂下降を開始した。T4までスムーズに降りたが、壁には後続パーティとして7人ほどのクライマーが岩にかじりついていた。岩自体も暑くなる時間帯、すこし心配になったが、とりあえず自分らは安全圏(T4尾根取り付き)まで懸垂下降で降りた。途中、雪渓クーラーや、渡渉ポイントで涼みつつ、昼前には横尾を通って、上高地に下山した。

核心の3ピッチ目を山本が登る。

これまでフリークライミングにこだわって、自分でもフリーで登れる易しいグレーディングのルートを基本に登ってきた。そのため、エイドクライミングからは距離を置いて接してきた感がある。ただパートナーの希望で今回雲稜ルートに触れ、先人たちがボルトを大量に打ち込んでまで登ろうとした執念と、その巨人の肩の上に立つことで成立した今回のクライミングには感慨深いものを感じた。またしばらくは自分のスタイル(フリークライミング)にこだわって登山を続けるだろうが、この時の気持ちを忘れずに、いつか言語化できるように心に認めたいと思った。